霧来川・三条は平家の落人集落ではない④

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滝沢川 西山温泉郷




新吉さんの話は以上で終わったのですが、三条は狭い山あいにあり村上に二反歩ほどの痩
せた、しかも冷水がかりの水田があるほか、村の近くに若干のやせ畑があるだけですから、
農業で生活を維持することができません。したがって霧来沢の河口でお椀が見つかった話
の通り、まず一つは木地屋で生活していたということです。

昔はどこの山も自由に渡り歩いて木地物の生産にあたり長期間定住することもなかったの
です。木地師の傍ら焼畑(火野 カノ)に雑穀などを栽培していたのです。

私たちが少年時代、三条から通称「簔売り婆」といわれたお婆さんが 手製の簔や杓子、
ヘラなどを背負ってきたものです。名前は「ヒロ」さん。今聞けば先ほどの新吉さんの話
に出た源次郎さんの母親だったとか。三条の簔はサワグルミの皮を用いましたが、縁をつ
けるにも針金は用いず、すべてシナノキの靭かな皮を繊維にしてできていました。すべて
自給自足で手作りが「三条簔」の特質でした。

冬になると狩猟が専業化しました。特に三条はほとんどが共同狩猟であることが特徴でし
た。奥山を冬季跋渉するということは危険を伴うことが多いので、共同狩猟は必要で、安
全な形態でありました。大動物は熊とカモシカでした。昭和25年に文化財保護法ができ
てカモシカは天然記念物に指定され捕獲を禁じられました、以前は自由だったのです。

狩猟に出かければ山中に小屋掛けして泊まり込みで猟をしました。同じ釜の飯を食った日
の獲物はたとえ一人で獲ったにしても全員で均等に分配され、独り占めは許されない不問
律がありました。熊やカモシカの解体の時は、カエデの小枝を折って神に供え一同が「シ
シは伏す、思いは野辺の露となるべし。アビラウンケンソワカ」と唱え事をしてから解体
に移りました。ちなみに「アビラウンケンソワカ」というのは真言宗の呪文で これを唱
えると全てがうまくいくとされています。ソワカというのは呪文の最後につける言葉で仏
への呼びかけのようなものです。

神への感謝、祈りが終わってから解体に移り、心臓 肝臓 腎臓 背肉の一部を煮て藁筒
(つと)に入れて「山ノ神」に捧げ、さらに獲物の多からんことを祈念することを 堅く
守っています。また狩猟に出入りしたときは里言葉は使いません。うっかり口にすれば獲
物が獲れない 災いが罹かるといって不吉なものとされています。特殊な山言葉について
は多少ですが前記いたしました。

マタギの掟について少し記しておきます。狩猟期の禁忌習俗にも厳しく 山入り前の儀式
山ノ神の祭礼 あるいは山言葉は厳重に守られております。三条の習俗もこれに倣ってお
ります。このマタギであることの証しは「巻物」にあるとされています。見れば漢文で書
かれており どのマタギも大切に所持しておりました。

さてマタギの精神的な支えは山ノ神信仰にあると述べましたが、これを具象化したものが
巻物です。これは狩猟の起源・由来など「本縁」を語るもので、山ノ神を助けた故に日本
国中での狩りを特に許されたと「マタギの起源」を説くものです。いわばマタギの聖典で
す。これには二つの系統があって 一つは日光派の持つ「山達根本の巻(ヤマダチコンポ
ンノマキ)」と もう一つは高野派の「山立由来の巻(ヤマダツユライノマキ)」です。
これによれば マタギの先祖は磐司磐三郎といい、弓の名人とされていました。この話は
どの地方でも拾える話で日本書紀に出てくるオロチ退治と似ております。(*蝦夷退治と
でもいうのかな?)

崇める山ノ神は女の神とされますが その中でも特に三条の山ノ神は醜女(シコメ)であ
ったとされておりました。自分の容貌に劣等感を抱いているので それを宥める(なだめ
る)為にオコゼという醜怪な海魚を奉献する習わしがありました。オコゼを見た山ノ神は
自分より醜いモノも世の中にはいるものだということに気づき、せめてもの慰めになるだ
ろう そうすることも山ノ神に対する功徳の表れだ ということからオコゼを献じるよう
になったというわけです。しかし三条は海から離れているので止むを得ずヤマイタチ(オコジョ)、
マムシ、毛虫、ヒキガエル、サンショウウオ、カジカ、その他 棘のある草を奉献してきた
と古老たちの証言ではっきりしております。

以上、三条の立地的な条件、言葉のアクセントの違い、生業などの点から 平家の落人の
子孫だろうなどという勝手な推測は 何ら根拠がない話だったと言わねばなりません。在り
し日の三条をしのび、その成立過程を民俗学的に考察した次第です。 加藤文弥







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by tabilogue2 | 2015-11-22 12:47 | 会津・越後 | Comments(0)